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Collaboration & Partnerships

意思決定の構造が生む「プロセス負債」

企業に所属していると、毎日何かしらの業務上の「調整」というのは発生する。

売上の話。組織の話。採用の話。顧客の話。サービスの話。
誰かが悪いわけでもない。むしろ優秀な人たちが、それぞれの役割を真面目に果たそうとしている。
それなのに、なぜか物事が前に進まない瞬間がある。

「一応、確認します」
「上長にも見てもらった方がいいと思います」
「前回どうしたか分からないので、少し調べます」
「関係部署と一度認識を合わせます」

どれも、個別に見れば正しい対応だと思う。

私は以前、組織について書いたnoteの中で、成長は前提を壊すと書いた。
人が増え、事業が伸びれば、昨日の正解が今日の足かせになる。

これは人や組織だけの話ではない。
企業の中に存在するルールや承認、会議、確認、引き継ぎ、情報共有。そうした「仕事の進め方」もまた、会社の成長とともに古くなっていく。

にもかかわらず、仕組みは人ほど簡単には入れ替わらない。
一度生まれたプロセスは、必要性を定期的に見直さない限り、そのまま残り続ける。

この積み重なった状態を「プロセスの負債」と呼びたい。

日本企業の意思決定が遅いと言われるとき、しばしば「日本人は慎重だから」「権限移譲ができていないから」といった文化論で説明される。
もちろん、それもゼロではないと思う。

ただ、大企業のお客様と向き合い、また自分自身も組織を大きくしてきた中で感じるのは、もっと構造的な問題だ。決めるまでの構造の重さ。
ここを文化や個人の資質の問題として捉えるか、構造の問題として捉えるかで、打ち手は大きく変わる。

プロセスは、だいたい善意から生まれる

会社で何か問題が起きる。
すると、再発防止策が作られる。
確認項目を増やす。承認者を増やす。会議を増やす。チェックリストを作る。専門部署を通す。

同じ失敗を繰り返さないために、組織が学習すること自体は必要だ。
問題は、その学習がほぼ常に「足し算」で行われることだ。

3年前に起きた事故への対応も残る。
5年前に当時の責任者が決めた承認も残る。

事業規模が10倍になり、メンバーも顧客もシステムも変わったのに、その頃に作られた確認プロセスだけは残っている。


もちろん、現在も必要なものはある。一方で、「なぜこの承認が必要なのか」と聞いたときに、明確な理由が共有されていないものも少なくない。

「昔からそうだから」「念のため」「何かあったら困るから」。そうした理由だけでプロセスが残り続けると、企業は少しずつ「失敗しないための組織」に最適化されていく。

本来、会社は何かを実現するために存在している。
プロセスもそのためにあるはずだ。
ところが、いつしか「事業を前に進めるためのプロセス」だったものが、「プロセスを正しく通過するための仕事」に変わる。

ここに、負債が生まれる。

判断が遅いのではなく、「判断できる状態」になるまでが遅い

意思決定というと、最後に誰かがYESかNOを決める場面を想像しやすい。
しかし実務では、その瞬間より前に圧倒的に多くの時間が使われている。

この案件は誰に聞けばいいのか。
前に似たケースはなかったのか。
なぜこの条件になったのか。
営業は何を約束したのか。
法務は何を懸念しているのか。
経営として、この案件をどれくらい重要だと考えるべきなのか。

情報を探し、人に聞き、チャットを遡り、会議を設定し、背景を説明する。そこに新しい関係者が加われば、また説明が必要になる。

こうして見ると、意思決定のボトルネックは「決断力」ではない。
判断に必要な文脈を揃えることにある。

この「判断できる状態をつくるための時間」は、企業の中で見えにくいコストになっている。
情報そのものがないわけではない。CRMにも、SlackやTeamsにも、メールにも、議事録にも、各部門のシステムにもある。そして人の頭の中にもある。

問題は、情報が存在していることと、意思決定に使えることはまったく別だということだ。

大量の情報の中から、今回の判断にとって何が重要なのか。何がいつもと違うのか。誰が何を懸念しているのか。どの前提が変わったのか。何を守り、何なら変えていいのか。
そうした「判断のシグナル」が見えないまま、情報だけが増えていく。

それが見えなければ、人は確認を増やす。確認する人が増えるほど情報も増え、意思決定はさらに重くなる。

承認を減らせば速くなる、という話でもない

ここまで読むと、「だったら承認者を減らして現場に権限移譲すればいい」と思うかもしれない。
私は、そんなに単純ではないと思っている。

企業が大きくなれば、守るべきものも増える。
顧客、株主、従業員への責任があり、法令、セキュリティ、ブランドも守らなくてはいけない。

だから、プロセスそのものを悪者にしてはいけない。
大切なのは、プロセスの数ではなく、そのプロセスが何のために存在しているのかが明確かどうかだと思う。

誰が決めるのか。誰の知識が必要なのか。何を確認できれば決めていいのか。どこからが例外なのか。
これが明確なら、複数の部門が関わっても速い。
逆に、ここが曖昧なら、権限移譲だけしても人は怖くて決められない。

「自由に決めていい」と言われた人が、過去の判断も会社の基準も分からない状態で、本当に自由に決められるだろうか。
少なくとも、権限を渡すだけでは十分ではない。
強い組織とは、ルールが少ない組織ではない。

組織として何を大切にし、過去に何を判断し、今回何が違うのかを理解したうえで、必要な人が決められる組織だ。

意思決定のスピードは、個人の胆力だけでは作れない。必要な情報と判断基準にアクセスできる状態まで含めて、組織として設計する必要がある。

契約業務には、その会社の「意思」が出る

私たちHubbleは、契約業務の領域で事業をしている。

契約という言葉を聞くと、多くの人はまず法務を思い浮かべる。
だが、Hubbleに入社し、たくさんのお客様の契約業務を見てきた私は、契約を「法務だけの仕事」だとはほとんど思わなくなった。

契約書には、会社の意思決定が詰まっている。いくらで売るのか。どんな顧客と取引するのか。どこまでリスクを取るのか。どんな条件なら譲れるのか。特定の顧客だけ例外を認めるのか。売上を優先するのか、利益を優先するのか、将来の可能性を取るのか、今あるリスクを避けるのか。

契約書に書かれるのは条文だが、その裏側にあるのは事業判断だ。

だから契約業務には、営業、事業部、法務、経理、情報システム、経営など、多くの人が関わる。
そして、多くの人が関わるからこそ、企業の意思決定構造の歪みも最も露出しやすい。

例えば、顧客からある条項を変更してほしいと言われる。
法律上許容できるかだけなら、法務が判断できるかもしれない。しかし、会社として判断するにはそれだけでは足りない。
この顧客は事業上どれほど重要なのか。この条件を断れば失注するのか。過去に同じ条件を受け入れたことはあるのか。そのときにはどんな事情があり、今回は何が違うのか。
ここまで揃って、初めて「会社としてどうするか」を判断できる。

つまり契約業務とは、法律の確認作業だけではなく、事業とリスクの間にある意思決定そのものなのだと思う。

Hubbleが速くしたいのは、契約書ではない

Hubbleというプロダクトを説明するとき、「契約業務を効率化するサービス」という表現は間違っていない。
実際、契約書を探す時間は短くできる。バージョン管理も楽になる。案件の進捗も見えるようになる。
もちろん、それらも重要だ。ただ、Hubbleの価値をそこだけで説明すると、本質を小さく捉えすぎると思っている。

私たちが本当に変えたいのは、その先にある。

過去にどんな契約をし、なぜそう判断したのか。誰が何を懸念し、どんなコミュニケーションを経て決まったのか。会社として、どこまでを標準とし、どこからを例外として扱ったのか。

こうした契約にまつわる情報と文脈がつながっていけば、次の案件でゼロから同じ議論をする必要はなくなる。
過去の意思決定が、次の意思決定の材料になる。

担当者が変わっても組織の判断が消えず、事業部自身も必要な情報を理解したうえで相談できる。結果として法務も、単純な情報探索や繰り返しの確認ではなく、本当に専門性が必要な判断に時間を使える。

それが積み重なれば、契約業務だけではなく、事業そのものが速くなる。
だから、Hubbleが速くしたいのは「契約書の処理速度」ではない。

契約を通じて行われる、企業の意思決定そのものだ。
私はそこに、Hubbleが存在する大きな意味があると思っている。

AIが速くするほど、人間の「判断の遅さ」は目立つ

そして今、この問題はAIによってさらに重要になる。
AIはすでに、文章を作り、情報を整理し、データを分析し、選択肢を出すところまで猛烈なスピードで進化している。
これまで人間が数時間かけていた作業が、数分、場合によっては数秒で終わる。
これは間違いなく大きな変化だと思う。一方で、その先では別のボトルネックがよりはっきり見えるようになる。
アウトプットが速く、そして整っていくほど、その奥にある「そもそも何を判断したいのか」が重要になる。

AIが10秒で選択肢を10個作っても、会社として何を大切にするのかが分からなければ決められない。AIが過去の情報を集めても、今回の判断にとって何が重要なのかが分からなければ、情報量が増えただけになる。

AIが数秒で分析を終え、その結果を人間が5部署で確認し、3回会議をして、1か月後に承認するのであれば、企業のスピードは大して変わらない。
むしろAIによって作業時間が圧縮されるほど、これまで見えづらかった意思決定の構造そのものがボトルネックとして露出するのではないかと思う。

AI時代の競争力は、AIを導入しているかどうかだけでは決まらない。増え続ける情報の中から、大切なものを見つけ、会社の意思につなぎ、決める。その速度と質が、これまで以上に問われる。

「名前のない問題」を放置しない

私は事業をやっていて、まだ名前のついていない問題に出会う瞬間が好きだ。現場では繰り返し起きているのに、明確な言葉になっていないために、経営課題としてアジェンダ化されない、そういう問題は少なくない。

一件一件を見れば、大した話には見えない。確認に30分かかった。会議が一つ増えた。過去の経緯を探すのに半日使った。別部署への説明が一往復増えた。それだけにも見える。

しかし、それが数百人、数千人の組織で毎日発生する。
それは課題として設定すべき問題である。
そして何より怖いのは、失われるのが「時間」だけではないことだ。

判断が遅れれば顧客や機会を失うことがある。
優秀な人が、本来やるべき仕事ではなく社内調整にエネルギーを使い続けることもある。
そしてその優秀な人が、その環境に長く居続けるような、そんな時代でもない。

会社が成長すれば、プロセスは増える。
だからこそ、増やすのと同じくらい、問い直さなくてはいけない。
この承認は何を守っているのか。この確認は、本当に人が毎回やる必要があるのか。この情報は、なぜ人に聞かなければ分からないのか。このプロセスは、今の事業を前に進めているのか。

昨日の正解を守り続けることが、今日の正解とは限らない。
仕組みもまた変わり続けなければならない。

Hubbleは契約という、企業の意思決定が最も濃く残る場所から、その変化をつくろうとしている。
必要な情報がつながり、過去の判断が残り、何が重要なのかが見える。そうして初めて、人が本当に決めるべきことに集中できる。

企業の意思決定を、もっと滑らかにする。
それが結果として、日本のビジネスをもっと速く、もっと強くできれば、嬉しく思う。
(Photo by Naoya Takahashi)

COO / Executive Officer

町田 健太

大阪大学工学部卒業後、株式会社電通にて大手企業の統合マーケティング戦略の立案・実行に従事。Amazon Japanでは複数業界の大手法人に対し、EC 戦略の構築・推進を支援。2022年より株式会社Hubbleに参画し、マーケティングマネージャー、事業責任者を経て、現職。

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